皆さんは使途秘匿金(しとひとくきん)と聞くとどんなイメージが思い浮かぶでしょうか?秘匿という言葉からは、バレたらまずい、隠しておきたいというニュアンスが感じられるかと思います。今回はそんな使途秘匿金の概要と法人税法上の取扱いについて、赤字会社が使途秘匿金を支出した例を取り上げながら解説していきます。
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使途秘匿金制度の概要
法人が相手先を秘匿する支出(使途秘匿金の支出といいます)については、違法行為や不当な支出につながりやすく、また公正な取引を阻害することや支出先の脱税を助けかねないことから、法人税法では法人の使途秘匿金の支出額に関して、法人税を納める義務があると定めています。
具体的には、法人が使途秘匿金の支出をした場合には、その法人に対して課税される各事業年度の所得に対する法人税の額は、法人税法及び租税特別措置法により計算される通常の法人税額に、その使途秘匿金の支出額の40%を加算した金額とすると定められています。
なお、使途秘匿金の支出とは、原則として、法人がした金銭の支出のうち、相当の理由がなく、その相手方の氏名・名称・住所・所在地とその事由をその法人の帳簿書類に記載していないものをいい、その帳簿書類への記載の有無の判定 (使途秘匿金に該当するかどうかの判定)は、原則としてその事業年度終了の日の現況によると定められています。
(取引の対価として支出されたものであることが明らかなものについては、使途秘匿金から除外されます。)
赤字会社が使途秘匿金を支出した場合の法人税額への影響
上記の規定は、その法人のその事業年度の決算が黒字であるか赤字であるかに関係はありません。使途秘匿金の額に40%の税率で法人税が課税されます。 以下では赤字会社の場合の具体例を見ていきます。
赤字会社の場合の具体例
【ケース】
A社では諸般の事情により、地元の有力業者に100万円の支出(取引の対価ではない支出)を行った。支出は現金で行ったが支払先等を明らかにできないことから、帳簿書類に支払先の記載はせず、また領収書等の証拠書類も一切残していない。当期決算は100万円以上の赤字(課税所得もマイナス)のため、上記支出を考慮しない場合の法人税額はゼロである。
【回答】
このケースにおけるA社の法人税額について考えます。赤字決算の法人であっても、その使途秘匿金の額の40%相当の法人税を納付する必要があることとなるため、今回のケースの場合は100万円×40%=40万円の法人税を納付することとなります。 また、法人税額を基準として課税される地方法人税や法人住民税についても、上記の法人税とあわせて納付することとなります。
使途秘匿金取扱いのまとめ
法人が使途秘匿金の支出をした場合には、たとえ赤字決算であっても、支出した使途秘匿金の額に応じて法人税を納付しなければならないということが理解できましたでしょうか?どうしてもやむを得ない場合を除いて、使途秘匿金としての処理は避けたいところですね。
使途秘匿金に関連する条文・通達
租税特別措置法第62条第一項
法人(公共法人を除く。以下この項において同じ。)は、その使途秘匿金の支出について法人税を納める義務があるものとし、法人が平成六年四月一日以後に使途秘匿金の支出をした場合には、当該法人に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の額は、法人税法第六十六条第一項から第三項まで及び第六項、第六十九条第十九項(同条第二十三項又は第二十四項において準用する場合を含む。)並びに第百四十三条第一項及び第二項の規定、第四十二条の四第八項第六号ロ及び第七号(これらの規定を同条第十八項において準用する場合を含む。)、第四十二条の十四第一項及び第四項、第六十二条の三第一項及び第九項、第六十三条第一項、第六十七条の二第一項並びに第六十八条第一項の規定その他法人税に関する法令の規定にかかわらず、これらの規定により計算した法人税の額に、当該使途秘匿金の支出の額に百分の四十の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする。
同条第二項
前項に規定する使途秘匿金の支出とは、法人がした金銭の支出(贈与、供与その他これらに類する目的のためにする金銭以外の資産の引渡しを含む。以下この条において同じ。)のうち、相当の理由がなく、その相手方の氏名又は名称及び住所又は所在地並びにその事由(以下この条において「相手方の氏名等」という。)を当該法人の帳簿書類に記載していないもの(資産の譲受けその他の取引の対価の支払としてされたもの(当該支出に係る金銭又は金銭以外の資産が当該取引の対価として相当であると認められるものに限る。)であることが明らかなものを除く。)をいう。
租税特別措置法施行令第38条第一項
法第六十二条第一項の規定を適用する場合において、法人が同条第二項に規定する金銭の支出(以下第三項までにおいて「金銭の支出」という。)の相手方の氏名等(同条第二項に規定する相手方の氏名等をいう。次項及び第三項において同じ。)をその帳簿書類に記載しているかどうかの判定は、各事業年度の所得に対する法人税に係る金銭の支出については当該事業年度終了の日(法人税法第二条第三十号に規定する中間申告書を提出すべき法人の当該事業年度開始の日から同日(当該法人が通算子法人である場合には、同日を含む当該法人に係る通算親法人の事業年度開始の日)以後六月を経過する日までの間の金銭の支出については、当該六月を経過する日)の現況によるものとする。
法人税法基本通達9-7-20(費途不明の交際費等)
法人が交際費、機密費、接待費等の名義をもって支出した金銭でその費途が明らかでないものは、損金の額に算入しない。
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